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Channel: T-960の記録
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マグナキット6

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『マグナキット』有名なコピペですが、派生作品も色々あります。
中には出来の悪い物も・・・


『元祖 マグナキット』 カワサキオヤジ編
高速バトル編

ハーレー編

出会いと別れ編
ライバル登場編

旅情編
望郷編
コンビニ編

勝利編
初体験編




箱根編

『青く澄みわたる空はどこまでも広がって白い雲がその身を伸ばして浮かび、風に流され・・・地上にふりそそがれる空からの風が俺の頬をなでる』

俺はいつも走っている箱根の道の脇の、小さな駐車場の片隅にある自販機の傍で、缶コーヒーを手に愛機のマグナ50をじっと眺めていた。

ノーマルで充分だ。
このマグナ50は、走り屋仕様の大型バイクにも負けることはないと信じている。

夏も終わりを告げようとしている時期で、どこからか蝉の鳴き声が聞こえる。
右のミラーには、バイク屋にもらったヘルメットが掛けられ、シートには軍手がだらんと指を伸ばして置かれていた。

愛機のかっこよさに浸り、コーヒーの残りを一気に飲みほそうとした時、待避所に黒いワゴン車のオデッセイが来た。
中にはチャラい感じの男女が4人、どっかへドライブへいく途中か。
車から降り駐車場の自販機へと向いながらこっちを見て

「おい原チャリだぜ」
「原チャリ~? でもちょっとデカくな~ぃ」
「オレ知ってるぜ、HONDAのなんとかって言うバイク、図体だけの」
「原チャってスクーターだけだろ?」
「軍手がおしゃれ」
と、言いたい放題だ。 

俺は相手にせず、コーヒーの缶をゴミ箱に放り込み、しまむらで買ったウインドブレーカーのチャックを胸元まで閉める。
マグナにまたがり、セルスターターを回した。
マシンは目覚めの雄叫びをあげる。
「トトトトト」小気味の良い控えめの音が響く。
蝉の声に負ける、またそれも心地よい。
駐車場を出て本道に入る。

何を思ったか、オデッセイもついてくる。
それをバックミラーで見た俺は、右手腕を上げて先に行けと合図した。
のんびり走りたいだけなのだ。

オデッセイは合図に気付いたのか気付かなかったのか、テールにぴったりとくっついた。
運転手のニヤニヤ顔がバックミラーに映る。

「ちきしょう・・・」
俺はマグナのフロントを高々と持ち上げてウィリーをかます。
いきり立った暴れ馬のようにフロントが高々と上がったマグナ50。
フルスロットル!
マフラーからオデッセイにぶつけんがばかりに爆音が響く。
空が揺れたかと思うほどの、激しい爆音。

耳のみならず、腹に図太い一発を食らい、心臓までをも貫きそうなそのサウンド。
やれるもんならやってみやがれ!というメッセージもふんだんに込めて・・・

そんな白日夢を思い描きながら、必死で逃げる。
箱根の登りは、ロングホイールベースのマシンにはキツイ。


そんな時、ミラーの片隅に光る物が見えた。
煽るオデッセイの後ろに、バイク数台のライトが見え隠れしている。

急にオデッセイの速度が落ちた。
後ろのバイクの進路妨害をするべく、左右にジグザグ運転をしているのだ。

「なんていうドライバーだ」
俺は呟きながらも、自分の身に降り掛かった災厄が少し遠のいた事に安堵していた。

どこか待避所がないか探しながら走るが、こう言う時に限って見つからない。
ミラーの中では相変わらずオデッセイが進路妨害を続けている。

一瞬の出来事だった。
オデッセイの隙を見て、その右手に滑り込む大型バイク、そしてライダーの足が動いた。
オデッセイのミラーを蹴った。

ミラーは後ろへすっ飛んでいった。


オデッセイが急停止するのを目の片隅に捉えた時、俺の隣を爆音と共に通り抜けていく大型バイク、左手でピースサイン 。
マグナ250!マグナ750!!マグナ1100!!!
迫りくるコーナーへマシンを傾け消えていった。

「あの人、無茶するなぁ」と思いつつも、俺は言い知れぬ爽快感に包まれていた。

もうすぐ峠だ。
トコトコとアクセル全開でマグナ50は頂きを目指す 。
夏の日差しが容赦なく照りつける。

ようやく峠のドライブインへ到着した。
駐車場にはたくさんの乗用車、そして数台のバイクが停まっている。
子供の頃、家族でこの場所へ来た時はバイクで溢れかえっていたのに、今では数えるほどしかバイクがない。


今では自分も立派なライダー だ。
俺は臆すること無く、大型バイクの隣にマグナ50を並べて止める。
さすがに車格が違うが、峠を走りぬけてきた愛車はどこか誇らしげである。 
俺は木陰になっている自動販売機へ向かった。

そこには、数人のライダー達が、一時の涼を求め休んでいた。
ウインドブレーカーを脱ぎ、肩に引っ掛け、ベンチの空いている場所へ腰をおろした。
先客のライダー達の会話が聞こえる。


「近頃はめっきりバイクも少なくなったよな」
「ここの駐車場もバイクの見本市さながら、ありとあらゆるメーカーのバイクが停まってた」
「腕自慢、愛車自慢が勢ぞろいしていたな」
「楽しかったなぁ」
「あぁ」
聞くとも無くそんな会話が耳に入ってきた。 
気持ちのいい木陰の風を感じながら、俺は缶コーヒーをあおる。

「君」
「おーい」
「大丈夫かい」
気がつくと先程のライダー達が心配そうに自分の周りに立っていた。
「あっ・・はい・・ちわ」
自分の置かれている状況がわからずにあやふやな返事をする。

ツナギの上だけを脱ぎ、腰で履いているライダーが俺に話しかけてきた。
「いきなり缶を落として、ぐるんぐるん上半身回ってたから、どうかしたのかと心配したんだ」
居眠りしていたのだ。
状況を把握した俺は耳まで真っ赤になりながら

「す・・いません・・ちょっとうつらうつらしてました」
「そっか、居眠りか 安心した。何かに取り憑かれてるようだったよ」
周りにも笑いが溢れる。

恥ずかしさの中にも、俺は自分もライダー達の仲間になれたようでなんだか心地良かった。

「君はどこから?」
ライダー達の輪の中、一際目立つライムグリーンのジャケットを着た小太りの男が俺に問いかけてきた。
「あっ・・埼玉からです」 

俺の返事に一同がどよめいた。
「奇遇だねぇ!、ここにいるみんな埼玉だよ」
「さっき知り合ったばっかりだけどね」

箱根といえども距離はある。
同郷の嬉しさを感じた。

「何乗ってるの?」
ひょろりとした眼鏡の男が俺の背後から声をかけた。

「マグナです!」


「ほう、アメリカンか マグナは車体が大きいよね」
ツナギの男がにこやかに答える。
割って入るようにライムグリーンの小太りが
「アメリカンじゃ箱根、キツくない?」と聞いてくる。

峠を攻めに来ている訳ではないので
「ぜんぜん、そんなことはないです!楽しいですよ」と答えた。
小太りのライムグリーンは少し訝しそうな顔で
「コーナーとか倒せないバイクはストレスが溜まるんじゃない?」
ちょっとイラついたが、こうやってバイク談義を出来ることがなんだか大切な時間に感じていた。
「そんなにスピード出して走るわけではないので平気です」
輪を乱さないように、努めて明るく答えた。

「そうだ、俺達、今から小田原に降りて、小田厚~東名で帰るけど君も一緒にどうだい?」
ツナギの男が聞いてきた。
またも小太りが被せてくる。
「小田原で鈴廣かまぼこ食べよう」
青年はライムグリーンの小太りを心の中で「みどりの子ぶた」と呼ぶことにした。

「いいんですか?僕なんて・・・遅いですよ」
青年はツナギに向かって答えた。


その時だった。
けたたましいサイレンの音と共に、パトカーと白バイが駐車場に入ってきた。

パトカーと白バイは、彼等のバイクが停まっている場所で停止した。
周囲の静寂を破る大音響で、パトカーのスピーカーから

「埼玉 せ ◯◯ー◯◯ カワサキのバイクの運転手さん」
「埼玉 せ ◯◯ー◯◯ カワサキのバイクの運転手さん、いますか?」
どうやらライダーの誰かを探しているらしい。

「やべぇ俺だ」
みどりの子ぶたが顔色をグリーンにして呟いた。

ブーツを引き摺るようにパトカーのもとへ、歩いて行く子ぶた。

バイクのシートカウルから、何か書類のようなものを取り出し警官へ手渡す子ぶた。
受け取った警官はパトカーの助手席へ、子ぶたは後部座席へ乗せられた。

「何をやったんだ?」
ツナギの男がつぶやく。 
重苦しい空気が周りを包むと、暑ささえ酷くなった気がして額の汗を何回も拭った。

パトカーの警官とは別に駐車場のバイクを調べていた、白バイ隊員がこちらに向かってくるのが見えた。


隊員は20代か、若い風貌だがやはり制服の威圧感がある。
「こんにちは、神奈川県警ですけれど、少しお話いいですか?」
礼儀正しく、微笑んで、しかし眼光は鋭く笑っていない。

「どうしたんですか?何かあったんですか?」
ひょろり眼鏡が、甲高い声で聞く 。
隊員は質問には答えず
「一緒に走られていた仲間ですか?カワサキの人は?」

「違います」
「いいえ」
意外なほど素早くツナギと眼鏡が答える。
俺も少し遅れて「僕は一人で」と小さい声で答えた。

「ああ、そうなんですか、ナンバーが皆、埼玉だから、お仲間かと」
隊員は未だ疑っている様だ。
「たまたま、駐車場で一緒になって話をしていただけですよ」
ツナギがやや不機嫌に答えた。

「ちょっとお手数ですが、車検証と免許証を拝見させてもらっていいですかね」
隊員はそう言うと、皆のバイクのもとへ向かった。

俺は「車検証」というものが、自分のバイクに無いことに焦りを感じていた。

買った時にもらってない。
車検を受ける時にもらうものなのか?
俺はまだバイクに乗り始めたばかり、そもそもバイクに車検があるかどうかなんて考えてもいなかった。

先に着いていた、ツナギとひょろり眼鏡は、既に隊員に何か手渡し、直ぐに返してもらっている 。
「あっ・・・あのぉ車検証がないです」
俺は勇気を振り絞って隊員に言った。

「えっ」
一瞬、隊員がたじろぐ、ツナギとひょろり眼鏡もこちらを振り向く。
「あぁ君は自賠責の証書でいいよ」
先程の鋭い眼光は消え、心持ち笑っているかのように隊員が言う。
「ジバイセキ・・・」新しい単語の登場に俺は更に戸惑った。


「保険のことだよ、シートの下とかどっかに入ってない?」
隊員は免許証を返しながら言った。

鳴き止まない蝉の声の中、俺は「らしき」ものを探す。
ツナギとひょろり眼鏡はヘルメットを被り出発準備をしている。
急いで探さなきゃ、焦る気持ちを抑えようやく取り出した保険証を隊員に渡す。

その時、セルの回る音と同時に、集合管の唸る音が響いた。
ツナギとひょろり眼鏡のバイクがあっという間に駐車場から消えていく。

俺は置いていかれたのだ。
「埼玉までは距離があるから、気をつけて帰るんだよ。安全運転でな」
隊員の声にうっかり涙が出そうになる。

程無く、後部座席に子ぶたを載せたままパトカーと白バイも駐車場から消えていった。
駐車場には、持ち主のいなくなったカワサキと俺のマグナ50。

初めて出来たライダー仲間、そして裏切り・・・
孤独感が俺を包む。
「ひとりぼっちか」そう呟いた時、愛機マグナの重厚なボディが目に入った。
俺には相棒がいるじゃないか、最高の友が!

居ても立ってもいられずに、俺はヘルメットを被り、軍手をしっかり装着すると愛機に跨った。
セル一発「トトトト」小気味の良い排気音は相変わらず、蝉の声にかき消された。
駐車場からゆっくりと発進させ、黄色いはみ出し禁止のラインがどこまでも続く道路へ 。
夏の日差しの中、右手を捻ればどこまでも行けそうな気がした。

そう俺は「マグナキッド」道が続く限り相棒マグナと走り続ける。


マグナキッドが駐車場に、しまむらのジャケットを忘れたのに気づくのは、もっと後のことである。





事故編

あれば今日みたいな暑い夏の日だった。

いつものように母ちゃんがガミガミとうるさい。
「今日もバイクに乗るの?お願いだから今日は家で夏休みの宿題をやってちょうだい」

俺はマグナキッドだぜ。
パンダや白馬を振りきるより、親に逆らうのが一番トッポイぜ。

「大丈夫だよ、母ちゃん。帰ってきたら宿題やるよ」

俺はジェッペと軍手を装備してマグナのエンジンに息吹を吹き込んだ。
ぽんぽんぽぽん
とリズミカルな排気音が大地を揺るがす。

駐輪場から発進して大通りに向かう。
制限速度30の狭い道を60kmのフルブーストで駆け抜ける。
するとババアが運転する軽が一時停止をしないで飛び出してきやがった。

制限速度30の狭い道だ。
軽ごときでも道路を防げてしまう。
フルブレーキ、駄目だ!!止まれない!
「ママ~~~!!」

俺はなんとか体は車にぶつからずにすんだ。
しかし相棒は・・・見るも無残なその姿。

俺は泣いた。
ハーレーに煽られたときも、妹にしねと言われたときも泣かなかった俺だが、この唐突な相棒の死には泣いた。

泣き崩れる俺の肩に目撃者のカワサキ乗りの手が置かれた。
「若造が無茶しやがって。お前にはバイクに乗る資格はない」
泣いた。
本当に後悔した。
相棒はもうあの軽快な軽い排気音を響かせてはくれないのだ。
俺はババアに電話番号を教え、無残にもひしゃげた相棒を引きずり家路についた。
だが俺は相棒をこのまま諦めるつもりはなかった。
カワサキ乗りのあの言葉 「お前にはバイクに乗る資格はない」
それだけは否定した。
心のなかの野性とプライドがそれを否定した。
俺はマグナを車庫に入れ、ポケットに入っていた携帯電話を取り出して親父に電話した。

「あっお父さん?あの・・・マグナが・・・」
「おう、どうした?昨日も磨いといてやったぞ」
「あの・・・いいにくいんだけざ」
親父はなにかを察したのか、突然。
「・・・事故か?お前アレほど言っただろ!!」
電話越しに親父が怒っているのがわかる。
俺は怯んで
「あいつら卑怯だよ!!大勢でさ!!マグナに乗ってたらひきづり降ろされてさ!!ボコられて、マグナを壊されたんだよ」

親父は何も言わずに電話を切った。
俺の嘘がバレたのだろうか?
親父に会うのが怖くて公園で一晩過ごそうとしたら、ヤンキーにマジで絡まれてボコられた。

18歳の夏。
体も痛んだが、親父に嘘をついた心が痛んだ・・・
















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